はじめに
まほやく シャイロックの原案、いわゆる元ネタとされる「ヴェニスの商人」との関係を考察してきましたが、今回で3回目。今回注目するのはムル。まほやくシャイロックの相棒とも言えるムルは「雄猫ムルの人生観」をモチーフにしていると言われています。
まほやくシャイロックの相棒とも言えるムルは「雄猫ムルの人生観」をモチーフにしていると言われています。
しかし、シャイロックの視点から見てみると、実はムルにも「ヴェニスの商人」からモチーフを得ている節がみられます。今回はムルが、「ヴェニスの商人」のどの立ち位置を引き継いでいるのか、じっくり考察しようと思います。
別記事で「ヴェニスの商人」のあらすじを紹介や、シャイロックの成り立ちを考察しているので、そちらから読むことをおすすめします。
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多少のネタバレが含まれる場合がありますので、原作未プレイのかたはご注意下さい。
うふふ、お楽しみ下さい
知識の探求の旅にレッツゴー♪
まほやく シャイロックとムルの関係
シャイロックとムルは昔馴染みで、お互いの人柄を気に入り、認め合う良き友人でした。シャイロックは独自の審美眼を持っており、そしてムルは世紀の知恵者と呼ばれ、ちょっと周りとは変わっている人物。自分と話の合う人がなかなかいない中、ようやく出会えた、ぴったりと息の合う友人なのです。
しかし、ムルは「魔法科学」を発明します。魔法科学は人間が魔法を使えるようになるという、素晴らしい発明である反面、人工物が多くなり、環境に変化を与えます。シャイロックの故郷であるベネット港も、波音は止まり、動物が死に絶え、海鳥の声もしなくなりました。
そして、魔法生物の化石である「マナ石」をエネルギー源としています。魔法使いたちが死ぬとマナ石となりますから、もしかしたら近い将来、魔法使い狩りが始まるかもしれないのです。シャイロックはムルが魔法化学の研究を進めている間、何度も止めるよう諫めていました。けれど、ムルは魔法科学技術の研究を止めませんでした。
そういった事情もあり、シャイロックはムルに対し憎しみを覚えるようになります。長年、友人として愛情を覚えていた半面、強い憎しみも抱いている。憎んでいるものの、愛情を捨てることもできない。二つの感情が共存している、奇妙な状態。実はこの関係のモチーフとなるエピソードを「ヴェニスの商人」から伺うことができます。
まったく…憎らしい人…
…にゃーん♪
まほやく ムルと「ヴェニスの商人」の登場人物
冷血漢が愛したシャイロックの娘
「ヴェニスの商人」のシャイロックには娘がいました。シャイロックは他人には傲慢ですが、娘のことは大切にしている様子です。しかし娘は、日頃からキリスト教徒と関わらないよう言いつけされており、また、他人に傲慢な態度をとる父親の姿を見て、自らの父親を恥じるようになりました。
そしてある日、娘は恋人と一緒に駆け落ちしてしまいます。シャイロックの命とも言える金品宝石をたんまり持って。それを知ったシャイロックはこう嘆きます。
「おのれの血肉が謀反気を起こすなんて!」
シャイロックは娘のことを「血肉」と表現し、自身の分身のように感じていました。他人には冷血なシャイロックですが、彼なりに娘のことを愛していたのでしょう。
まほやくシャイロックがムルに向ける愛情とは種類が少し異なりますが、「愛していた」という点については、娘とムルは共通しています。また、ムルは家族のもとから宝石を持って家出した経歴があります。ムル自身の宝石以外にも、魔法科学の発明により、ムルはシャイロックの大切にしていた港町の景観を奪いました。このあたりも「ヴェニスの商人」シャイロックの娘と似通った部分がありますね。
シャイロックをどん底に突き落とした博学多識な裁判官
「ヴェニスの商人」のシャイロックが、契約を反故にしたアントーニオの胸の肉を切り取ろうとした人肉裁判。周りからはシャイロックの行いを批判する声が殺到しますが、シャイロックはきちんと法律を守っているため、誰も彼を止めることができません、しかし、シャイロックは大逆転負けすることになります。その原因は知恵者である裁判官の沙汰でした。
「よかろう。憎い男の肉を切り取るがよい。ただし、その際に、証文にないキリスト教徒(アントーニオ)の血を一滴でも垂らしてはならぬ。」
もちろんそんなことは不可能なので、シャイロックはアントーニオの肉を切り取ることができません。この後も、裁判官は言葉巧みにシャイロックを追いつめていきます。この裁判官は周囲から「博学多識な裁判官様」と評され、知恵者と位置づけられています。
「ヴェニスの商人」シャイロックは、他人から1言われたら10言い返すような口達者ですが、ぐうの音も出ないほど論破されたのは、この裁判官のみです。知恵者という点で、心が砕ける前のムルに似通った部分がありますね。
愛に生きる、アントーニオの友人
「ヴェニスの商人」のシャイロックとはあまり直接関わらないのですが、アントーニオの友人、バサーニオーもムルに似通った部分があります。
バサーニオーはある高貴な女性に一目ぼれをし、結婚を申し込みにいきます。その際に文庫本1ページまるっと使用した愛の言葉を女性に送ります。それも3連発。つまり3ページ分。「ヴェニスの商人」の登場人物は、情熱的でウィットに富んだ言い回しをするキャラがおおいですが、その中でも愛の言葉があふれにあふれています。まるで月に恋するムルのよう。
バサーニオーは女性と結婚することが叶い、その際に女性から「私だと思って大切にしてね」と指輪を送られます。その指輪はバサーニオーと女性の愛の証。ムルも自身のアミュレットとして、ムーンストーンの指輪を持っています。愛している月になぞらえて指輪を持っているあたりが、ムルとバサーニオーを紐づけますね。
登場人物をごちゃまぜにかきまぜたのがムル
他にも、口達者な道化者であるシャイロックの召使いが、魂の砕けたムルに似ていたり。月光の下で愛をささやくエピソードが、シャイロックの娘と駆け落ちした男に似ていたり…と、共通点を探すと様々なキャラクターがわんさかでてきます。
まほやくシャイロックにとって、ムルというキャラクターは、原案「ヴェニスの商人」のシャイロックに関わる登場人物を、ごちゃまぜにしたような人物です。そのため、まほやくシャイロックはムルに対して「愛」も「憎しみ」も、ごちゃまぜな感情が入り混じっているのでしょう。改めてムルというキャラクターの幅広さに舌を巻きました。
また、原案がシェイクスピアの戯曲ということもあり、まほやくシャイロックも、魂が砕ける前のムルも、言葉選びがユーモラスです。そのあたりも「ヴェニスの商人」の影響を受けているのかもしれませんね。
さいごに
ここまで「ヴェニスの商人」シャイロックと、まほやくシャイロックの様々な共通点をあげてきましたが、いかがでしょうか?
個人的にですが、まほやくシャイロックは、原案での性格を踏襲しつつ、悪役で終わってしまった人生のやり直しをしているのではないか、と考察しながら感じました。今度こそ、悪役ではなく、ハッピーエンドを迎えてもらいたいものです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
それでは、また!
参考文献
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