はじめに
スマホゲーム「魔法使いの約束」に登場するキャラクターは、原案となった別の物語のキャラクターがいます。今回は北の魔法使い、ミスラについての考察です。
以前の記事で、まほやくミスラのモチーフとなったミトラ神が生まれたときの神話について考察しています。そもそもミトラ教とは何か概要について解説もしていますので、まずはその記事からお読みおただくのをお勧めします。
北の魔法使い、ミスラのモチーフとなったミトラ神話。3000年前から続く神秘に包まれた宗教。ミトラ神はいったいどういった神なのか。また、まほやくミスラにはどういった影響を与えているのか。じっくり深掘りしていきたいと思います。ここから[…]
今回はミトラ神が出張出演しているゾロアスター教、また、西方ミトラ教について考察していきます。
多少のネタバレが含まれる場合がありますので、原作未プレイのかたはご注意下さい。
ゾロアスター教とは?
ここまでは、ミトラの原点、原始ミトラ教をベースにお話してきました。
ここからは、少し道にそれて、ゾロアスター教にでてくるミトラに触れたいと思います。
ゾロアスター教の設立は紀元前6世紀頃。
当時、ペルシャ帝国(現在のイラン)には複数の宗教が流行しており、それゆえ帝国が分裂しそうになっていました。
そこで、みんなが1つの教えを崇められるように、と当時主要だった宗教の神話を1つにひっくるめて、新しい神話を生み出しました。
その新しい神話をベースにしているのがゾロアスター教です。そこには原始ミトラ教も含まれます。しかし、ミトラ教とは違って、ミトラは一番偉い神様ではありません。
複数の宗教をごっちゃにしたので、主神が3人いるのです。その中の1人がミトラです。しかも、どちらかといえばミトラは2番目に力をもっている神様。1番ではないので、まほやくミスラがきいたら怒りそうですね。
では、ゾロアスター教のミトラはどんな活躍をしているのか。神話とともにみていきましょう。
ゾロアスター教の神話
ゾロアスター教の神話は、ざっくりいうと、まず世界が生まれ、正義と悪の2チームが生まれ、両チームが戦いを繰り広げていく…というストーリーになっています。
なんやかんやあって、正義vs悪の戦い第一戦は正義チームが勝ちます。悪の親玉も正義の親玉に眠りにつかされました。
そして平和な日々がすぎる中、あるとき正義チームの内、2人の神様が闇落ちします。(え?)
世界がまたざわざわし、人間たちの間で暴力と悪意がはびこるようになりました。
そこで正義の親玉は、ミトラを地上に派遣します。ミトラは地上を統治し、悪の攻撃から生き物達を守り、悪しき行いをしたものを裁いていきました。ミトラは頑張りましたが、悪の親玉が次々と魔族を量産。この世は神vs悪魔の戦場となったのです…。
というのがざっくりとした話です。このあと大決戦が起こり、正義チームが勝利。悪の親玉と、悪のNo2は地獄に落ちて燃え滅びます。
ゾロアスター教のミトラ
ゾロアスター教におけるミトラは、戦いの神、いわば軍神です。勝利をもたらす神として軍人に大人気だったそう。
原始ミトラ教では、あくまで聡明で穏やかな神様でしたが、ここで軍神という属性がプラスされます。なんだかまほやくミスラに近づきましたね。
また、ミトラの生まれ変わりの神様がゾロアスター教神話の終盤にでてくるのですが、彼は死滅していった全ての生き物を復活させます。そして善人を不老不死にしたのです。
それゆえ、ミトラは不死の神様としても崇められています。まほやくミスラの、骨を操ったりできる特性はここから着想しているかもしれませんね。
ちなみに、悪のNo2にアズ(Az)という悪魔がいます。アズは魔族の母であり、神話の最後、悪の親玉と一緒に地獄に落とされました。
まほやくオズと関係があるかは不明ですが、今後のストーリー展開も気になりますね。
西方ミトラ教とは?
ここまで原始ミトラ教、ゾロアスター教の内容をみてきましたが、最後に西方ミトラ教についてお話したいと思います。
ミトラ教はとても長く続いた宗教ですので、時代によって形を変えてきました。そのほぼ最終系に近い形が「西方ミトラ教」です。
原始ミトラ教やゾロアスター教の教えなどを、必要なところは残し、不要な部分はばっさり切り落としたり、改変したり…といった宗教です。その再構成をしたのは、哲学者プラトンです。もしかしたら、名前を聞いたことのある人もいるのでは?
主神はミトラ1人。友情と戦友愛に重点をおいた宗教です。信徒同士の連帯は強く、ローマ軍将兵の間には、秘密結社型の組織が形成されていました。
また、ローマ皇帝、ネロがミトラ教に入信し、以降ミトラ教は大きく成長しました。
(まほやくネロが、あのネロ帝をモチーフにしたかは今のところ不明です。黒猫ネロの帰郷かな、とも思うのですが…今後の考察とストーリー展開に期待。)
パンとワインの秘儀
西方ミトラ教では、新しい神様や教義が生まれました。その中の一つに「パンとワインの秘儀」があります。
主祭司が緋色の法衣を身にまとい、信徒にパンと赤ワインを分け与えます。そして助祭司が祭壇にパンと聖杯を載せ、聖杯に赤ワインを注ぐ。これで準備はOK。
主祭司が祭壇のパンを小さくちぎり、赤ワインに浸して信徒の口の中にいれる…というのが「パンとワインの秘儀」になります。
まほやくミスラは、自身のアミュレットとして、銀の盃を持っています。
もしかしたら、この「パンとワインの秘儀」から着想を得ているのかもしれませんね。
賢者の晶と、最高位のアキラ
西方ミトラ教の信徒は、7つの階位に分類されます。1つ1つ秘儀をクリアしていって、階位を上げていく仕組みです。
その最高位は「アキラ」と呼ばれ、信徒達の指導をしていました。賢者のデフォルト名、晶(あきら)に関係あるかは不明ですが、気になるところではあります。
ミスラの部屋にある翁の面
最後に、ミトラ教とは関係ないのですが、まほやくミスラの部屋にある翁の面について少し触れておきます。
ミトラ神は色んな宗教に出張出演したり、永く続くミトラ教の中で形を変えていったりしました。が、実は、仏教にもミトラをモチーフにした神様がいる、という説があります。
それが「弥勒菩薩」です。
バビロニア→中央アジア→中国とミトラ教が伝えられ、ミトラ教は弥勒教として今も民間宗教として根づいています。ミトラ=弥勒菩薩として変換されたんですね。
まほやくミスラの部屋にある翁の面。明らかに世界観と異なり浮いていましたが、こういったエピソードが関係しているのでしょう。
もっとも、菩薩は穏やかな顔をしているものです。ミスラの部屋の面は随分と怖い笑みを浮かべているので、菩薩とはほど遠いですが…。
さいごに
いかがでしょうか。
時代によって形を変えていったミトラ教。実は今回ご紹介したお話以外にも、別説などもあります。ミトラが生まれる時、岩から炎と閃光とともに、火花のように飛び出してきた…とか。まほやくミスラならやりそうですね。
興味のあるかたは、まだまだ語りつくせないほどミトラのエピソードはありますので、ぜひ調べてみて下さい。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
それでは、また!
参考文献
東條真人「ミトラ教の歴史1(新版)」
東條真人「ミトラ神話.ミトラ単一神教の神話」
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