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ラスティカ&クロエは今度こそ悲劇を乗り越えられるか?「幸福な王子」の運命を吹っ飛ばせ!【元ネタ考察】

スマホゲーム「魔法使いの約束」に登場するキャラクターは、有名文学作品をモチーフにして形作られています。今回は西の魔法使い、ラスティカとクロエを考察していきます。

ふたりの主なモチーフとなっているのは「幸福な王子」と「日々の泡」という小説。どちらも悲劇的な物語であり、ふたりの根幹を形作っています。この記事では「幸福な王子」からふたりがどのような影響を受けているのかじっくり考察していきます。この先はネタバレが含まれますのでご注意を!

それでは、レッツゴー!

INFO

第2部最終章までの内容をふまえ、全体的にリライトしました。別記事「ラスティカとクロエのファッションチェック!モチーフは王子とツバメ?」の内容をこの記事に統合しました。

概要

「幸福な王子」は1888年にオスカー・ワイルドによって執筆された短編小説です。当時初出版されたときは、他にオスカーが執筆した4つの物語と一緒に童話集として出版されました。

日本では数多くの訳本が刊行されており、子どもでも読みやすい童話となっています。下記と記事の最後に小説のリンクを載せておきますので、お時間があれば是非読んでみて下さい。読後の何とも言えない切なさが胸に刺さる名作です。

あらすじ

Plate 1 of The Happy Prince and Other Tales (1888)

Crane, Walter, 1845-1915, Public domain, via Wikimedia Commons

町にそびえた柱の上に、「幸福な王子」の像が建っていました。王子の像は全身が純金で覆われ、両目にはサファイア、剣の柄には赤いルビーが輝いています。町の人々は口を揃えて王子を褒めたたえます。人々にとって美しい王子は自慢なのです。

別の場所では、一羽のツバメが葦(水辺に生えてる稲のようなあの草)に一目ぼれし、ラブコールを送っていました。ツバメは渡り鳥ですから、冬には遠く南へと行かなばなりません。しかし、葦に夢中になっていたツバメは、仲間たちに置いて行かれました…。

旅が大好きなツバメは葦を旅に誘いますが、葦は自分の家が気に入っていたため誘いを断ります。フラれてしまったツバメは一足遅く、南のエジプトへと旅立ちました。一日中飛んだツバメは羽を休めようと、道中の町にある「幸福な王子」像の足元に降ります。するとツバメの頭に王子の流した涙が一滴二滴と落ちてきます。ツバメは尋ねました。「どうして泣いているのですか?」

王子は言います。「町の全ての醜悪なこと、悲惨な事が見える。貧しい家で疲れたご婦人がお針子をしている。ご婦人には病の息子がいるが、貧しいので水しか与えられない。ツバメさん、ツバメさん。どうか私の剣の柄からルビーを取り出し、あのご婦人にあげてくれないか。」

ツバメは言います。「私はエジプトに行きたいんです。」他にも理由を述べて断ろうとしますが、あまりに王子が悲しい顔をするので、お使いをしてあげることにしました。ルビーをご婦人の眠る脇に置き、病に伏せる息子の額を翼であおぎました。息子は「とても涼しい。僕はきっと元気になる。」と言うと心地よい眠りにつきました。ツバメはなんだか温かい気持ちになり、その晩は町で眠りました。

次の晩、ツバメは今度こそエジプトに旅立とうと王子に別れの挨拶をしにきました。が、王子はまた困っている人を見つけた様子。町の人を助けようと「ツバメさん、ツバメさん。」とお願いをしてきます。自分の眼のサファイアや、身体を覆う純金を、貧しい人に配って欲しいと頼んできたのです。見捨てることもできないツバメは、次の晩、また次の晩と王子の願いを叶え、貧困に苦しむ人を助けていきます。

その中でツバメは町の様子をみてきました。金持ちが幸せに暮らす一方、貧困に苦しむ貧民達がいる。この町は富裕層と貧困層に分かれた混沌とした町なのです。日々は過ぎ、冬が近づいてきました。ツバメはどんどん寒くなっていきますが、王子の元から離れようとはしません。ツバメは心から王子を愛していたのです。

ツバメはもうすぐ自分は死ぬのだと悟りました。しかし、王子は自身の眼であるサファイアを苦しむ人に与えたため、ツバメが寒さに震える姿が見えていません。ツバメがもうすぐ死ぬことに気づいていないのです。

ツバメは王子に言います。「さようなら、愛する王子。」王子は言います。「あなたがとうとうエジプトに行くのは嬉しいよ。私もあなたを愛しているよ。」ツバメは最後の力で伝えます。「死の家に行くのです。死は眠りの兄弟ですよね…。」そしてツバメは王子のくちびるにキスをして、死んだのです。

その瞬間、王子の鉛の心臓が二つに割れました。

次の日、市長と市議員が、全身の純金が剥がれてみすぼらしい姿になっている王子像を見て言いました。「美しくないから役に立たないだろう。」彼らは幸福な王子の像を降ろし、溶鉱炉で溶かしました。しかし、鉛の心臓はどうしても溶かすことができませんでした。鉛の心臓はごみ溜めに捨てられ、その傍らにはツバメの亡骸も横たわっています。

神様は天使に命じました。「町の中で最も貴いものを二つ持ってきなさい。」天使は鉛の心臓と、ツバメの亡骸を持ってきました。神様は言いました。「天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌い、 黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美するだろう。」と。

世界設定

ここからは「幸福の王子」から、まほやくがモチーフにしている設定を見ていきましょう!まずは世界設定から。

貴族と貧民

幸福な王子の舞台の町は、裕福な貴族と、貧困に喘ぐ貧民とが住まう町です。この貧富の差はまほやくにも設定として受け継がれています。ラスティカの育成スポットである「豊かの街」では富裕層の、クロエの育成スポットである「泡の街」では貧困層の住む場所として描かれているのです。

別の記事でも紹介しますが、「日々の泡」でも貧富の差が如実に描かれており、一つのテーマとなっています。この共通した設定の中、クロエは奇跡的にラスティカと出会い、幸せへと歩みだしました。悲劇である「幸福な王子」・「日々の泡」では見られなかったハッピーエンドが、まほやくでは描かれるのかもしれませんね。

豊かの街

ラスティカの育成スポット「豊かの街」には、願いを叶えてくれる女神像があります。女神像の足に触れて、願い事を浮かべると叶うという伝説があるのです。「幸福な王子」では、困っている人の願いを王子側が一方的に叶えていましたが、まほやくでは逆に人々が像に願いごとを叶えてもらう構図となっています。

もしも「豊かの街」が「幸福な王子」の舞台となった町のパロディなのであれば、王子像が撤廃されて後に建造されたのが女神像…なんて自由な想像もできますね。

泡の町

クロエの育成スポット「泡の町」は貧民街であり、ここに暮らす子どもたちは賢く用心深い逞しい子たちです。通りで似顔絵を描いてお金を稼いでいる子や、中にはスリを行う子も。「幸福な王子」では、お腹を空かせた子どもたちが通りで横になっていたりしましたが、王子が自身の宝石や純金を与えたため、パンを食べることができました。

しかし、まほやくでは王子像はいないため、子どもたちは自身でお金を稼がなくてはなりません。そのため、「幸福な王子」とは違い、スリを行うなど、子どもたちは逞しくなったのでしょう。

ラスティカの部屋

Schloss Sanssouci, 02.11.2015

Tobias Nordhausen, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

幸福の王子は実は元々は人間で、死後、王子像に魂が宿った…みたいな設定です。たぶん。生前はサンスーシ宮殿に住んでいました。サンスーシ宮殿とは実際にドイツにある美麗な宮殿で、世界遺産に登録されています。このサンスーシ宮殿の音楽演奏室と、ラスティカの部屋がなんだか似ています。

Schloss sanssouci potsdam von innen

Janstoecklin, CC BY-SA 3.0

目に映える寄木細工の床。赤を基調とした家具。黄金に縁どられた絵画たち。音楽演奏室の絵画の縁取りや壁は、金の植物の蔦が覆っています。ラスティカの部屋にも植物の蔦がありますね。

Gallery (Schloss Sanssouci)-8

Yair Haklai, CC BY-SA 4.0

極めつけは、サンスーシ宮殿音楽演奏室の中央に位置しているチェンバロ。ラスティカは著名なチェンバロ奏者ですが、由来はここからきているのかもしれませんね。

サンスーシ宮殿は、全体的に白壁に金の蔦の装飾が施されています。西の魔法舎の室内も白壁に金の蔦っぽい装飾が施されており、床は寄木細工ですね。

元々、ラスティカが暮らしていたサファイアの城の内装が、サンスーシ宮殿と似ているのかもしれません。それをザラが魔法舎に再現し、ラスティカは無意識にインテリアを似せたのかもしれませんね。

余談ですが、サンスーシ宮殿を建てたのは、当時プロイセン王のフリードリヒ2世。彼はフルート奏者でもあり、芸術の啓蒙に大きく貢献しました。サンスーシ宮殿のチェンバロの上にフルートが飾ってあります。

サンスーシ宮殿には音楽家が集い、中にはチェンバロ奏者として、あのバッハの息子である、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハが仕えていました。彼は左利きだそうですよ。そのため弦楽器はちょっと苦手。ラスティカは両利きで、バイオリンも得意ですね。知ると楽しい余談でした。

サンスーシ宮殿は、めちゃくちゃ広いサンスーシ公園内にあります。公園内にはいくつもの宮殿が建っているのですが、そのひとつが新宮殿です。これもフリードリヒ2世が建てた宮殿で、主に王族や高官をもてなす場として使用されていました。

Neues Palais (Sanssouci, Potsdam)
Potsdam Sanssouci 07-2017 img2

本館

Greg_Men, CC BY 2.0

別館

A.Savin, FAL, via Wikimedia Commons

新宮殿は本館と別館に分かれています。別館は現在ポツダム大学として利用されています。宮殿が大学だなんて素敵。本館と別館をがっちゃんこすると、あら不思議。第2部で登場した西の国の王宮、メシエ本殿によく似ています。

私たちの世界のサンスーシ宮殿と新宮殿は同じ公園内にあるのですが、まほやくでも西の魔法舎とメシエ本殿は同じ敷地内に位置しています。モチーフにする上でこだわりポイントですね。

また、公園内にはウニヴェルシテート・ポツダム植物園もあります。外観や内装はあまり似ていませんが、温室では背の高い熱帯植物がもっさもっさしています。第2部で植物園が登場したのは、この施設がきっかけかもしれませんね。

キャラ設定

ここからは、「幸福な王子」から、ラスティカとクロエがモチーフにしている設定を見ていきましょう。王子=ラスティカ、ツバメ=クロエ(花嫁)のモチーフになったと仮定して読んでみて下さい。なぜその方程式となるのか?それは少しずつお話していきましょう。

ラスティカの名前

ラスティカのフルネームはラスティカ・フェルチ。少なくとも400年は生きている魔法使いで、貴族の出身とされています。ラスティカは自身の出生に関して「フェルチ家の生まれ」という事のみ覚えており、過去や家族に関することはほとんど覚えていません。

そのラスティカの過去が、第2部で明かされましたね。切なかった…。もしまだ読んでいないようでしたら、ここから色々とネタバレが含まれますので、まず第2部を読んで下さい。面白いから!マジで!

話を戻します。ここではキャラ設定的にラスティカの名前の由来を考えてみましょう。

ツバメは英語で「swallow」と表記し、「幸福な王子」の原文でもこちらで記載されています。それとは別に、ツバメを学名で表記すると「hirundo rustica」となります。この「rustica」というスペルはそのままラスティカの名前のスペルと一致します。

学名とは、学問上世界共通で使う名前のことで、ラテン語の名詞+形容詞でつけるというルールがあります。そのため「hirundo rustica」もラテン語であり、直訳すると「素朴な/rustica ツバメ/hirundo」となるのです。一般的にツバメと言えばこれ!と思い浮かべるポピュラーなツバメです。

ラスティカは「素朴な」という意味ですが、間接的にツバメの意味も込められてそうですね。本当はヒルンド/hirundoと名付けたかったかもしれませんが、ラスティカとヒルンドだったら、ラスティカの方がカッコいいですよね。私ならラスティカと名付けます。

そして、苗字のフェルチはラテン語の「fēlīx/幸運」の与格形容詞、「fēlīcī」。与格とは日本語でいうところの「~に」と同じ意味合いです。もし「ラスティカ」をツバメの意味合いで解釈した場合は、「ラスティカ・フェルチ=ツバメに幸せを与える」となります。

ラスティカはクロエを助け出し、幸せを与えてきました。クロエをツバメのモチーフだと考えると、とてもピッタリな名前ですね。

ツバメを花嫁と解釈しても面白いかもしれません。アリアはラスティカと出会えて幸せでしたでしょうから。ザラは真っ黒な衣装を身にまとい、ちょっとツバメを連想させます。この先、ラスティカはザラにも幸せを与えるのかもしれませんね。

また、ラスティカを「素朴な」の意味合いで解釈した場合、「ラスティカ・フェルチ=素朴な幸せ」となるような、ならないような。文法的にあやしいですが、日々の小さな幸せを大切にしているラスティカに、ピッタリな名前ですね。

「幸福な王子」では王子はわざとではないとはいえ、ツバメを死なせてしまう結果となりました。ツバメ本人がどう感じていたかはわかりませんが、ハッピーエンドとは言えないお話です。まほやくではツバメ、もといクロエには幸せが与えられ、ハッピーエンドを迎えられるという暗示なのかもしれませんね。

ちなみに、クロエの名前の由来は「日々の泡」をモチーフにしていると思われます。詳しくは別の記事で触れていますが、名前の意味を要約すると「ラスティカのクロエ」、つまり、ラスティカの花嫁となります。公式ホームページに載っているラスティカの台詞、もとい口癖である「僕の花嫁」。これがもし「僕のクロエ」に置き換わることがあるとしたら。

さすがにラスティカとクロエが恋仲になるとは考えていないのですが、それに近い執着心をラスティカはクロエに抱くことになるかもしれません。その可能性はシャイロックも感じており、「案外、支配欲や束縛が強いタイプ」と称しています。

果たしてラスティカとクロエの関係は変化していくのか。これからのストーリーを楽しみにしたいと思います。クロエの名前の由来は、こちらの記事で触れているので、お時間のある際にチェックしてみてください。

ラスティカの性格

ラスティカは困っている人がいれば、自分の財産を惜しまず与え、人助けをしてしまう性格。金銭感覚はガバガバで、いつもクロエに心配されたり、止められたりしています。このあたりの性格は、自分の装飾をばらまきまくった王子と似ていますね。

ラスティカはおねだり上手で、クロエに身支度を手伝って貰ったり、たまに皆にもお願い事をきいてもらっています。嫌味なく助けたいと思えてしまうので、本当におねだり上手ですね。王子もツバメに、何度もお使いを上手に(?)頼んでいましたので、色々と世話を焼いてもらう性質が似ています。実際に小説を読んでみて下さい。めちゃくちゃお使いをお願いしているので笑。

クロエの性格

クロエは心優しい青年で、生活能力ゼロのラスティカの面倒をよく見る世話焼きな部分もあります。王子のお願いを沢山叶えてきたツバメに似ていますね。ツバメの旅好きなところも、ラスティカに連れられて旅をしてきたクロエと似ているように感じます。さすがに葦に求婚するところは似てませんが…。求婚はどちらかというとラスティカっぽいですね。

クロエの根幹の性格は「日々の泡」と、もう一つ「灰だらけ姫」がモチーフになっていると思われます。「灰だらけ姫」がモチーフになっているなんて今はじめて言いましたが。これはシャルル・ペロー版シンデレラです。また別の記事でじっくり考察していきますね。

鳥と花嫁と鳥籠

公式ホームページに載っている、ラスティカの紹介ページ。そこにはラスティカの台詞が載っています。台詞はこちら。

「やあ、ようやく出会えたね。僕の花嫁。さあ、この鳥籠にお入り。」

幾度となく聞いた台詞ですね。実はこの台詞の横に英文訳も一緒に掲載されているのをご存じでしたか?この台詞の訳がこちら。

「Hi,finally I can meet you, my bride. Come on,let`s enter into this birdcage.

ちょっとややっこしいのですが、「bride=花嫁」「birdcage=鳥籠」です。「brid/鳥」と「bride/花嫁」をかけているんですね。お洒落。花嫁の呪いを解くためには、彼女を鳥籠に収納する必要があります。まさに「bride cage / 花嫁の籠」だったわけですね。

モチーフとなったエピソード

ここからは「幸福の王子」をモチーフに描かれたエピソードをみていきます。どれも素敵に生まれ変わっていますよ。

ラスティカと王子の涙

今回の考察の目玉がこちら。涙に関するエピソードです。幸福の王子では、こんなシーンが描かれています。

幸福の王子の両眼は涙でいっぱいになっていました。 そしてその涙は王子の黄金の頬を流れていたのです。 王子の顔は月光の中でとても美しく、 小さなツバメはかわいそうな気持ちでいっぱいになりました。

「あなたはどなたですか」ツバメは尋ねました。

「私は幸福の王子だ」

「それなら、どうして泣いているんですか」とツバメは尋ねました。 「もう僕はぐしょぬれですよ」

「まだ私が生きていて、人間の心を持っていたときのことだった」と像は答えました。 「私は涙というものがどんなものかを知らなかった。 というのは私はサンスーシの宮殿に住んでいて、 そこには悲しみが入り込むことはなかったからだ。 昼間は友人たちと庭園で遊び、夜になると大広間で先頭切ってダンスを踊ったのだ。 庭園の周りにはとても高い塀がめぐらされていて、 私は一度もその向こうに何があるのかを気にかけたことがなかった。 周りには、非常に美しいものしかなかった。 廷臣たちは私を幸福の王子と呼んだ。 実際、幸福だったのだ、もしも快楽が幸福だというならば。 私は幸福に生き、幸福に死んだ。 死んでから、人々は私をこの高い場所に置いた。 ここからは町のすべての醜悪なこと、すべての悲惨なことが見える。 私の心臓は鉛でできているけれど、泣かずにはいられないのだ」

Copyright (C) 2000 Hiroshi Yuki (結城 浩)

宮殿の中で幸福に満ちていた王子は、今まで悲しみを知らずに生きてきたのです。このエピソードをモチーフに、第2部でエピソードが描かれました。それが、クロエが語ったこのシーンです。

ラスティカが、どれだけお金持ちで、どれだけ、みんなに愛されて、幸せな暮らしをしていたとしても…。悲しい時は、悲しいよ…。悲しい時は、泣いたりするものでしょ?

なのに、羽根になっても崩れても、ラスティカは笑ってる…。きっと、誰も教えてあげなかったんだ。悲しみや、不幸を教えないまま、ラスティカに幸せしかあげなかった。だから、ラスティカはどうしたらいいか、わからないんだよ…。

<中略>

…ラスティカは俺に、幸せなことをたくさん教えてくれた。今度は俺が教えてあげる番だ。俺がラスティカに、教えてあげる…。悲しみや、不幸を。

第2部 21章 第4話「あの場所に戻りたい」

王子もラスティカも、宮殿を出るまで悲しみを知りませんでした。鉛である王子は悲しみに涙を流すことができましたが、人間であるラスティカはできませんでした。それをクロエが救ってくれ、ラスティカはようやく涙を流すことができたのです。

王子はもしかしたら、ある意味幸福だったのかもしれませんね。涙を流す事ができ、傍にツバメがいてくれたのですから。「幸福の王子」をモチーフにした、素敵なエピソードでした。

ラスティカの記憶と王子の心臓

ツバメは渡り鳥ですから、冬は暖かい南の国へ行かなければなりません。しかし、王子は貧しい人のために自分の眼であるサファイアをあげてしまいました。目が見えなくなった王子のために、ツバメはずっと傍にいると決めます。しかし、街には容赦なく冬が訪れました。

王子はツバメのことを愛するも、ツバメの状態に気づかず死なせてしまいます。眼が見えないので、ツバメが死にそうになっている事に気づけなかったのです。そして心がふたつに割れてしまいます。

ラスティカは彼のせいではないとはいえ、アリアを殺してしまいました。そして、心を守るためでしょうか、過去の記憶を忘れてしまいます。「幸福の王子」と似ていますが、まだラスティカの心は割れてはいません。そばにクロエ達がいますから。

まほやくはモチーフ作品の悲しいエピソードを、「今回はそうはいかないぜ!」とばかりにハッピーエンドに変えてくれる事が多いです。ラスティカとザラの決着はまだついていません。「幸福の王子」を超える、とびきりなハッピーエンドを迎えられるといいですね。

欲望と祝祭のプレリュード

西の祝祭イベントストーリー「欲望と祝祭のプレリュード」に登場する家無し魔女。彼女は「幸福な王子」に登場するマッチ売りの少女をモチーフにしています。

「幸福の王子」に登場する少女はマッチを売っていましたが、溝に全て落としてしまい、売れるマッチがなくなってしまいました。少女がお金を持って帰れなかったら、父親が少女をぶつだろうと王子は言います。王子は自分のサファイアを少女に持っていくようツバメに頼みます。ツバメは王子の目が無くなってしまうことを嫌がりましたが、王子が切に願うため、少女にサファイアを運びました。少女は喜び、笑いながら走って家に帰っていったのでした。

まほやくに登場する家無し魔女のエピソードはこちら。カジノに潜入した賢者たちは、一人の魔女を見つけます。クロエは泡の町で彼女を見かけていたため知っていました。彼女は周りから「家無し魔女」と呼ばれ、家から追い出されて路上で眠りながら、指先から出した炎で自分を温めていたのです。

クロエとラスティカは、彼女が幸せになれるよう願いを叶えようとします。彼女は願いました。「誰のためでもない、自分が楽しめる歌を歌いたい。」その願いをきくと、ラスティカはピアノを奏で、クロエはドレスを用意しました。軽快な伴奏と共に歌う彼女のもとに、素敵な音楽を聴こうと人が集まります。そして音楽が終わったあと、そこには嬉しそうな魔女の姿があったのでした。

「幸福な王子」では、マッチ売りの少女を王子とツバメが助けました。それと同じように、まほやくでは家無し魔女をラスティカとクロエが助けたのです。「幸福の王子」をオマージュした、心温まるエピソードでした。

悲しそうな顔をする王子とラスティカ

「幸福な王子」の王子は、ツバメが王子の頼みを断って旅立とうとすると、とても悲しい顔をしました。それをみたツバメは良心を打たれ、王子の頼みをきくことにしたのです。これに似たエピソードがまほやくでも描かれています。

クロエと世間話をしていた賢者。クロエに「いつか自分の店をもつのか?」ときくと、クロエは「いつか持ちたいけれど、ラスティカとお別れしなきゃいけないから、まだ先でいい」と答えます。(クロエキャラクターエピソード ラスティカの気持ち)

そして、前に旅の劇団から衣装係になってくれとオファーを受けた事があると話しました。その時、劇団の人がラスティカとを見て吹き出したそう。「お兄さんにそんな顔をされちゃあ、この子を劇団に貰うわけにはいかないね」と。クロエは実際にラスティカの表情をみれませんでしたから、どんな顔をしていたかはわかりません。

怒るか寂しがるかしていたと思いますが、ラスティカの性格上、とても悲痛な表情をしていたのかもしれませんね。表情一つで友人を引き留めるところが、「幸福な王子」と似ているエピソードでした。

キャラデザイン

続いてキャラデザインを見ていきましょう。ビジュアルも「幸福の王子」をちょっぴりモチーフにしていそうです。

ラスティカの外見

ラスティカは「幸福な王子」に登場する王子像をモチーフにしています。王子の両目はサファイア、剣の柄はルビー、身体は黄金でしたが、自身の宝石や純金を貧困に困っている人に配ってしまったため、最期には鉛の灰色になってしまいました。そして、物語の終わりには雪が降っていたため、身体には雪が積もっていたと推測できます。

では、ラスティカの外見をみてみましょう。

ラスティカの両目は深い青色。これは王子の両目のサファイアをモチーフにしているのでしょう。ラスティカは剣を持っていませんのでルビーは見当たりませんが、インナーが深い赤色ですね。真っ白なアウターと、アクセントにあしらわれている金色は、王子の最期にわずかに残った純金と、雪が降り積もっている姿をモチーフにしているのかもしれません。

ちなみに、身分の高そう(?)な魔法使いたち、例えばオズやアーサー、スノウホワイト、ヒースクリフはピンブローチをつけており、ラスティカも同様にピンブローチをつけています。ピンブローチの由来がまだ調べきれていないので、なぜそのキャラクター達が身に着けているのかなど、法則性を引き続き考察していこうと思います。

そして、ラスティカの胸に輝く薔薇の装飾が施されたロケット。このロケットの中身は未だ作中では語られていません。薔薇はラスティカのもう一つのモチーフである小説、「日々の泡」を由来としていると思われますので、そちらの記事を読んでみて下さい。髪型、髪色も同様にそちらにて。

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クロエの外見

クロエは「幸福な王子」に登場するツバメをモチーフにしていると思われます。たぶん。「幸福な王子」では特にツバメの外見について語られてはいませんので、世間一般的なツバメだったのでしょう。(ツバメにも色々と種類がありますがここは割愛。)

ところで、みなさんはツバメをじっくり見たことがありますか?どういったカラーリングなのかみてみましょう。

頭から尻尾にかけて青→黒に変化していき、くちばしの周りは赤、胸元は白っぽいクリーム色です。つまり、カラーリングとしては、黒、赤、クリーム、青色。では、クロエの服装はどうでしょう。

服のカラーリングはトップスが黒、赤、クリーム色。パンツは濃い目の暗い青。ツバメのカラーリングに似ていると言えなくもないような、言えないような笑。

そして、胸元には羽と薔薇のデザインのブローチを挿しています。この羽は「幸福な王子」のツバメから、薔薇はラスティカと同じく「日々の泡」から由来がきているのでしょう。

また、瞳の色はすみれ色。「幸福な王子」で、ツバメは王子に頼まれて、サファイアを劇作家の若者のところに運びました。その際に、部屋の傍らにある枯れたすみれの上にサファイアを置いたのです。サファイアは王子の瞳。サファイアとすみれが重なり、光に透かしてみるとすみれ色の瞳に見えたかもしれませんね。

ザラの外見

クロエのカラーリングがツバメっぽいとお話しましたが、ザラのカラーリングもツバメに似ています。むしろこちらの方が連想しやすいですね。ツバメのカラーリングは、黒、赤、クリーム、青色。

ザラのカラーリングは、黒、赤、くすんだクリーム、青色。そして黒い羽根が帽子についています。The・ツバメですね。薔薇の衣装もたくさんあしらわれていますが、これも「日々の泡」を意識しているのでしょうか?

黒を基調にしたデザインは、「幸福の王子」だけではなく、童話の「青い鳥」とも深く関係しています。こちらの考察もお時間があれば読んでみて下さい。

走り書き

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青い鳥との関係

最後に、童話の「青い鳥」との関係について考えてみます。メーテルリンク作の童話劇「青い鳥」は、チルチルとミチルという兄妹が青い鳥を探して様々な世界を旅するファンタジー童話劇です。この「青い鳥」は南の魔法使いルチルとミチルのモチーフとなった作品です。作品のあらすじや、まほやくでオマージュされたエピソードなどは下の記事を参考にして下さい。

元ネタ考察

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鳥籠を持って世界を旅する、というシチュエーションは、まさにラスティカとクロエを連想させますね。しかし、なぜラスティカとクロエのエピソードに青い鳥が関わってくるのでしょう?それはラスティカとクロエのエピソードが「幸福」をテーマにしていることが多い為ではないでしょうか。

ふたりのモチーフになっている「幸福な王子」では、タイトル通り「幸福」がひとつのテーマとして描かれています。お金があれば幸せなのか?そう思っているから富裕層が肥大し、貧困層が苦しむのではないか?そういった問題提起を読者に投げかけているのです。

また、ふたりのもう一つのモチーフである「日々の泡」では、はじめは幸せの絶頂にいた主人公たちが、不幸に見舞われ、だんだんと没落していく姿が描かれています。対価なくして当たり前に続く幸せなどない、という非常にリアルなテーマを掲げている作品です。

ラスティカとクロエのモチーフである二作品が「幸福」をテーマとしており、そこからモチーフを得たふたりにも、度々「幸福」をテーマにしたエピソードが描かれているのです。このふたりに限らずまほやく全体で、幸せになるための物語が描かれているようにも感じますね。

ルチルとミチルが鳥籠を持って旅する設定にならなかったのは、おそらく既にふたりとも身近にある幸福を大切にできているからでしょう。「青い鳥」の大きなメッセージとして、世界中を探し回らなくても、幸せは身近にある、という教訓を描いています。

ルチルのエピソードで、南の魔法使いは身近な幸せを大切にしている事が語られています。つまり、ルチルに青い鳥は必要ないのです。ミチルにも必要ない…と、思う…はい。その為、ラスティカとクロエが鳥籠を持って旅する設定になったのでしょう。

オスカー・ワイルド

Oscar Wilde, Irish dramatist, poet, and wit, born Oscar Fingal O’Flahertie Wills in 1854. 1882

おまけで、「幸福の王子」の作者についてご紹介します。まほやくとは関係ないので、ご興味のある方はよろしければ。

作者のオスカー・ワイルドは1854年にアイルランドのダブリンに生まれ、オックスフォード大学を首席で卒業。以降、詩人、作家、劇作家として活躍した文学人です。才ある人物でしたが、彼は少々素行がよろしくなく、妻がいるのにも関わらず浮気をする、キリスト教で禁止されている同性愛者(正しくは同性異性問わず)であることで世間からは浮いた存在でした。

オスカーはアルフレッド・ダグラスという男性と恋仲でしたが、アルフレッドの父が同性愛を見かねてオスカーを裁判にかけます。敗訴したオスカーは投獄され、出所したものの世間からは冷たい視線を浴びせられ、そのまま病気で亡くなりました。しかし、彼の残した作品と生きざまは世界中の文豪家達に影響を与え、谷崎潤一郎、夢野久作など日本の近代文学の作家達も彼の作風に影響されたとされています。

さいごに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。めちゃくちゃ長かったですね。いや、本当にありがとうございます。それだけ「幸福の王子」、まほやく共に素晴らしい作品だという事ですね。

色々とモチーフをご紹介しましたが、今から「幸福の王子」を読んでも、とても楽しめます。わりと王子が良い性格しているので、ぜひ読んでみていただきたい笑。

幸福の王子 Copyright (C) 2000 Hiroshi Yuki (結城 浩)

ラスティカとクロエは、まだまだ展開していきそうですね。今後のストーリーも楽しみにしたいと思います!それでは、また別の考察で!

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