まほやく初のイベントストーリーにして、名作と名高い祝祭ストーリー「欲望と祝祭のプレリュード」。今回はこのイベストに盛り込まれた、元ネタを考察していきます。まほやく流に描かれたエピソードの数々は必見!
ここからはネタバレが含まれますのでご注意を!
それではレッツゴー♪
初版発行【2020/12/29】
ストーリーを読み直し、全体的に内容を追加してリライトしました。【2022/12/11】
キャラクターの元ネタ
まずはキャラクターの元ネタについて簡単に触れておきますね。賢者の魔法使いには、それぞれモチーフとなる文学作品があります。いわゆる元ネタという奴ですね。
- ムル&シャイロック=牡猫ムルの人生観・ヴェニスの商人
- クロエ&ラスティカ=日々の泡・幸福な王子
これらモチーフとなった作品の設定やエピソードが、賢者の魔法使い達の設定にも反映されているのです。あくまでモチーフであり、賢者の魔法使い達には、まほやくらしさがしっかりとありますけどね。
このヴェニスの商人、日々の泡、幸福な王子のエピソードが、西の祝祭ストーリーにちょっと盛り込まれているのです。たぶん牡猫ムルの人生観のエピソードも盛り込まれていると思うのですが、まだ完全には読めていないので、履修したら追記しますね。
まずは、シェイクスピアの傑作にして、まほやくシャイロック&ムルのモチーフとなった、ヴェニスの商人にスポットを当ててみましょう!
ヴェニスの商人のあらすじ
ヴェニスの商人ってどんなお話?ということで、とっても簡略化したあらすじを。舞台は16世紀イタリアのヴェニス(ヴェネツィア)。主人公のアントニオと、金貸しのシャイロックは馬が合わず非常に仲が悪く、お互いに毛嫌いしていました。アントニオがキリスト教徒で、シャイロックがユダヤ教徒だったのも理由のひとつです。
ある日、アントニオは友人のためにお金が必要になり、シャイロックから借りようとします。しかし、シャイロックはアントニオのことが心底嫌いでしたので、金を貸す条件としてこう述べました。
「指定された日付までに借りた金を返すことが出来なければ、シャイロックにアントニオの肉1ポンドを与えなければいけない。」
アントニオは貿易商人です。ちょうど彼の所有する船が航海中で、もうすぐまとまった金が手に入る予定でした。そのため、アントーニオはシャイロックのいう通り証文を交わしてしまいます。つまり、「約束」をした、ということです。
しかし、約束の期日前。船が難破し、彼は全財産を失ってしまいます。金を返す事ができないため、アントニオは裁判にかけられました。これが世に有名な「人肉裁判」です。彼への憎しみに囚われたシャイロックは、アントニオの友人が金を返すと言っても、断固として彼の心臓の肉1ポンドを要求します。アントニオが殺されてしまう。そう誰もが思ったとき、裁判官がこう言いました。
「憎い男の肉を切り取るがよい。ただし、その際に、証文にないキリスト教徒(アントニオ)の血を一滴でも垂らしてはならぬ。」
これにより、アントニオは無事生還し、逆にシャイロックはアントニオを命の危険にさらした罪として自身の財産を半分無くし、ユダヤ教からキリスト教へと改宗させられました。そして実はアントニオの船が難破していないことが判明。物語は大団円を迎えたのです。
わりと性悪なアントニオ
さて、このあらすじで登場したアントニオですが、西の祝祭にも同じ名前のキャラクターが登場しますね。それが、西の天空離宮の持ち主であるアントニオ伯爵です。アントニオ伯爵は子供の頃は魔法使いに憧れていたピュアボーイでしたが、60歳となった今では魔法使いを嫌う傲慢なおじさんとなっています。まほやくに登場するアントニオは、ヴェニスの商人に登場するアントニオをモチーフにしているのでしょう。
ではヴェニスの商人のアントニオはどんな性格だったかというと、…わりと傲慢な青年です。シャイロック(ユダヤ人)を見下し、酷い暴言を吐くこともあります。それにシャイロックも負けじと嫌味を言い返すので、まあどっちもどっちではあるのですが。
しかし、このヴェニスの商人が描かれた16世紀では、残念ながらユダヤ人は周りから迫害されており、アントニオの態度も当然のものとして民衆に認知されていたのです。なんだかまほやくのアントニオが、魔法使い達を見下している態度に似ているように感じますね。もしかしたら、西の祝祭ストーリーではユダヤ人と魔法使い達をなんとなく重ねて描いているのかもしれませんね。
さて、このヴェニスの商人からモチーフを得た、60歳アントニオ伯爵と魔法使いシャイロックが、天空離宮で対峙します。ヴェニスの商人でシャイロックは「人肉裁判」で惨敗しましたが、まほやくではムルという天才が味方にいます。果たして西の祝祭における「人肉裁判」もといカジノ対決はどちらに軍配が上がるのか?というのが西の祝祭の楽しみのひとつなのです。
人肉裁判とカジノ対決
さてさて、西の祝祭で描かれたカジノ対決ですが、これはヴェニスの商人の人肉裁判をちょっとオマージュした流れとなっています。まずヴェニスの商人の人肉裁判の流れを見てみましょう。
人肉裁判の流れ
1.契約(約束)をかわす
アントニオは、友人のために悪名高い高利貸しのシャイロックに金を借りにいきます。しかしシャイロックはアントニオを嫌っているため、貸付の際に証文(約束)を交わします。
「指定された日付までに借りた金を返すことが出来なければ、シャイロックにアントニオの肉1ポンドを与えなければいけない」
アントニオの友人は金を返せなかった場合を心配しますが、本人は臆せずに契約(約束)を結びます。しかし、アントニオは期日までに金を返済できず、裁判にかけられてしまいます。
2.大切なものをとられそうになる
シャイロックは裁判でアントニオの心臓の肉1ポンドを要求します。周りは批判しますが、法律的には問題ないため、刑が執行されそうになります。このままアントニオは死んでしまう…そう誰もが思っていました。
3.知恵者により大逆転勝利する
そこで、若くして法学博士を努める裁判官が、シャイロックにこう言います。
「よろしい。憎い男の肉を切り取るがよい。ただし、その際に、証文にない血を一滴でも垂らしてはならぬ。きっかり1ポンドだ!わずかでも秤が動いたのなら、命は無き者。財産は全て没収するものと思え。」
裁判官の機転により、シャイロックはアントニオの肉を切り取れず、アントーニオの大逆転勝利となったのです。めでたしめでたし…かどうかはともかく、人肉裁判のおおまかな流れはこんな感じです。この流れを意識しながら、まほやくのカジノ対決を見てみましょう。
カジノ対決の流れ
1.契約(約束)をかわす
天空離宮を貸してもらうために、ムルはアントニオに賭けを申し込みます。しかし、アントニオは魔法使いを疑っているため、「魔法やイカサマをしない」とムルに約束をさせます。シャイロックは心配しますが、ムルは臆せず約束を交わします。
「ヴェニスの商人」のアントニオが、シャイロックと貸し付けの契約を交わした状況と非常に似ていますね。ムルはアントニオと勝負をしますが、なかなか勝てず連敗します。
2.大切なものをとられそうになる
ムルの指輪も賭けでとられ、他に賭けるものが無く、あとがなくなりました。そこでシャイロックは自分の店を賭けるよう提案します。くしくも「ヴェニスの商人」のアントーニオが心臓の肉をとられそうになるのと同じように、シャイロックの大切な店が悪役にとられそうになるのです。
最後の勝負を仕掛けるものの、ムルの旗色は悪く、このままムルは負けてしまう…そう誰もが思っていました。
3.知恵者により大逆転勝利する
ムルの魂のかけらが賢者に言います。自分をムルに飲ませるように、と。賢者は言われた通りムルに魂のかけらを飲ませました。すると、ムルに知的で怜悧な、見透かすような眼差しが宿ったのです。
魂のムルが本体のムルとひとつになったことで、ムルに更なる知恵が宿ったのでしょう。次々と賭けに勝利していくムル。そして遂には自身の指輪を取り戻し、天空離宮を賭けた勝負にも勝利!
「ヴェニスの商人」の裁判官が手助けしてくれたのと同じように、魂のかけらのムルという知恵者によって、みごとムルが大逆転勝利を収めたのでした。
こうしてみると、西の祝祭の大筋はヴェニスの商人をモチーフにしていそうですね。シェイクスピア作においては惨敗したシャイロックですが、まほやくでは逆転勝利!見事、胸がスカッとする「喜劇」となったのでした。
猿真似の道化師
ここで、ちょっとしたオマケエピソードを。天空離宮を貸してほしいとアントニオに頼みに行った際、シャンデリアの上に乗っている無作法なムルにアントニオが怒りながらこう言います。「シャンデリアから降りてこい!猿真似の道化者め!」
これはヴェニスの商人のある登場人物達を意識した台詞だと思われます。それが、猿と道化者です。シャイロックには愛娘がいるのですが、ある日父に愛想をつかした娘は、宝石をたんまり持って恋人と駆け落ちしてしまいます。
しかも、娘は商人から猿を買ったのですが、その返礼として、シャイロックが奥さんから貰った指輪を支払っていたのです。それを知ったシャイロックは怒り騒然。
「畜生め!その事実、おれをとり殺すぞ!そいつはおれのトルコ玉だ!女房のリアにもらったやつだ。まだ一人だった時にな。それをくれてやるなどと、言語道断だ。猿なんか山中全部もらったって、どうしてそんなことできるものか!」
シャイロックからしたら猿を買うのに大切な指輪を売られたわけですから、そりゃもうゲキオコでしょう。これがシャイロックと猿のエピソードです。
そしてもう一人の登場人物が、シャイロックの召使い・ランスロットです。ヴェニスの商人は劇ですから、当然舞台で役者がキャラクターを演じることになります。このランスロットはおちゃらけたキャラクターとして演じられる事が多く、シャイロックからも「道化者」と呼ばれているんですね。
シャイロックからみるとランスロットは「大食らいで使えない召使い」という評価。あまり大切にはしておらず、嫌気がさしたランスロットはなんと別の主人に鞍替えしてしまいます。シャイロックは「おれが暇をだしたんだ…。」と言いますが、なんだかそれが負け惜しみに聞こえたりもしたりしなかったり。
この猿と道化師になぞらえて、まほやくアントニオの「シャンデリアから降りてこい!猿真似の道化者め!」という台詞が生まれたのかもしれませんね。
まとめ:逆転されたヴェニスの商人
さいごにまとめとして、ヴェニスの商人から祝祭イベストが影響を受けた内容を整理してみましょう。
- ヴェニスの商人の主人公アントニオと、西の伯爵アントニオ
- ユダヤ人と魔法使い
- 人肉裁判の流れを汲んだカジノ対決
- 猿真似の道化物とムル
西の祝祭ではヴェニスの商人とは逆で、シャイロック達が勝利を収めました。まほやくのアントニオ伯爵は、ヴェニスの商人のシャイロックと同じように、相手に契約を迫ったり、ムルを猿真似の道化者と馬鹿にしていますから、名前はアントニオ・中身はシャイロック、という見方もできますね。そうなると、さしづめシャイロック達の中身はアントニオということでしょうか?色々な見方ができて楽しいですね。
さいごに
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!お楽しみいただけましたか?
前編となる今回は、西の祝祭×ヴェニスの商人の関係を考察していきました。次回はなんと、クロエとラスティカのモチーフである「日々の泡」&「幸福な王子」と西の祝祭の関係を考察していきます。
イベストに登場する家無し魔女のモチーフとは?幸福を忘れて働く人々のモチーフとは?次回も乞うご期待!
それでは、また次回お会いしましょう!
See You!
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