まほやく世界は有名文学作品をオマージュして世界観が作られています。聖書の「神と信徒」の関係性がオマージュされていたり、オズの魔法使いのように5つの国に別れていたりなど。
今回はその2作品に加え、もうひとつオマージュされたであろう作品をご紹介します。それがラリー・ニーヴン作「魔法の国が消えていく」というファンタジー小説です。史上最強の魔法使いが、マナを求めて月を降ろす旅にでる物語。この小説とまほやくの関係を、今回はじっくりと考えていきたいと思います。
ここから先はネタバレが含まれますのでご注意を!
それでは、レッツゴー!
作者 ラリー・ニーヴン
CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=127584
まずは作者について少しご紹介します。作者はラリー・ニーヴン。1938年にアメリカ・ロサンゼルスに生まれ、現在もご存命であるSF作家です。彼が26歳のころからSF小説を書き始め、今までに実に数多くの小説を執筆しています。代表作は「リングワールド」シリーズ。
今回ご紹介する「魔法の国が消えていく」は、1973年に刊行された短編集の中に収録された話の一つ、「ガラスの短剣」を皮切りにスタートしたシリーズモノです。
- ガラスの短剣 / 1973年 …ガラスの短剣以外にも、SF小説を収録した短編集
- 魔法の国が消えていく / 1978年
- 魔法の国がよみがえる / 1981年 … 「魔法の国が消えていく」の前日譚である「終末は遠くない」の他、他者執筆による「魔法の国が消えていく」の後日譚が収録された短編集。
今回はシリーズの核心となる長編、「魔法の国が消えていく」を考察していきます。では、物語のあらすじをチェックしていきましょう!
あらすじ
ウォーロックのもとに集う仲間たち
紀元前1万2000年、アトランティス大陸が陥没した頃、大地からは魔法の源泉であるマナが枯渇しはじめ、しだいに魔法が効かなくなっていました。神々はすでに絶滅していて、神話の世界の存在となっています。
そんな中、ひとりの魔法使いが世界を救うために立ち上がりました。名をウォーロック。齢240になる史上最強の魔法使いです。その力たるや、城を宙に浮かべ、稲妻で軍隊を撃退し、幻の都市を造って一夜にして破壊するという凄まじさを誇りました。
彼は得意になり、自身をウォーロック、つまり戦争を封じるものと名乗ったのです。そしてこの異名は、後世、魔法使いの総称となるのです。
最強を誇ったウォーロックですが、今はかつての力はふるえず、容姿も若さを保てずに老人の姿をしています。それは、世界から魔法の源であるマナが枯渇していたからです。
ウォーロックのもとに紆余曲折ありながらも、ひとりの魔法使い、ひとりの魔女、ひとりの骸骨姿の妖術師、そしてひとりの兵士が集まりました。彼らにウォーロックは提案します。月からマナを得てはどうか、と。隕石にはマナが豊富に含まれているため、月にもマナがあるだろうと考えたのです。
誓約
しかし、月を降ろすには大量のマナが必要ですが、今の世界には存在しません。そこで骸骨妖術師のウエイヴィヒルが言います。自分は世界最後の生き残りである神を知っていると。その神からマナを得ればよいと提案したのです。
ただし、神の居場所を教えるには条件があると言います。「誓約してもらいたいことがある。マナを獲得したあかつきには、おれを元の体に戻してくれるか?あんたたちの誓約には拘束力があるんだよ。マナの強い環境のもとでは、誓約はいかなる自然法よりも強力なんだ。」
こうしてウォーロックたちとウエイヴィヒルは誓約を結び、彼らは最後の神を探す旅に出たのです。
世界の虫
一行は様々な難関を乗り越え、ついに最後の神がいる場所へとたどり着きました。それは<世界の虫>の中でした。<世界の虫>とは、世界をぐるりと取り巻いている超巨大な蛇であり、アルプス山脈やロッキー山脈もすべて<世界の虫>の一部を形成しているのです。
しかし、<世界の虫>は今や風化し、石のような灰色になっていました。魔法生物はマナが少なくなると石となるのです。その<世界の虫>の中に最後の神はいましたが、神もまた石造のように半透明の大理石となっていました。
その神を蘇らせるために、魔女ミランディが降神術を執り行います。生き物の死や、殺人を行うとマナが生じます。ミランディは今や死んだも同然である<世界の虫>にとどめを刺し、それによって生じた魔力により降神術を執り行おうとしたのです。しかし、術が終わっても神が蘇ることはありませんでした。
最後の神との戦い
その後、各々が休憩しているとき、頭にはもう神の復活は無理だという考えが皆に浮かんでいました。愛している人に別れを告げる者や、自分を死なせてほしいという者もおり、暗い雰囲気が一行を覆います。と、ミランディが突如、声を上げました。
「あの神が手近なところにある、全ての愛と全ての狂気を吸い取っているのよ!そうしたものを食べている最中なのよ!」
その言葉にウォーロックは立ち上がりました。迂闊なことでした。一行は気づかぬうちに「正気」に陥っていたのです。甘い推理、堅実な判断、そして哲学的諦観。これらは魔法使いたちには一般にみられないことなのですから。要は魔法使いはちょっとクレイジーなのでしょう。
降神術は失敗したと思われていましたが、実は神を蘇らせていたのです。復活した神、ローズ=カティは世界中の狂気を吸い取り、むくむくと山を超えるほど大きくなっていきます。狂気が吸い取られ、戦争はいたるところで集結し、兵士が家族の元へと帰っていきます。皆が愛情と約束事を思い出したからです。
ローズ=カティは、自分を眠りから覚ましてくれた礼として、ウォーロック達の「月を降ろす」願いを叶えるといいます。おまえたちの望みはこれか、とローズ=カティはウォーロック達の頭にあるイメージを見せました。
それは地球のような青い星に、月のような星が衝突し、変形し、炎の中にのみ込まれるイメージでした。骸骨のウエイヴィヒル達が叫びます。「違うぞ!おれたちは知らなかったんだ!」それに神はこう答えます。
「しかしそれはわたしが望むところなのだ。わたしは炎の時間を切り抜けることができる。わたしには、神々が生きられるような状況、死の現実を生の現実へと転換できる状況が必要なのだ。死んだ月の助けを借りて、わたしは変化した地球に、わが子らを住まわせるであろう。おまえたちはわたしに仕えてくれたから、わたしはおまえたちのそれぞれを、もう一度創りだしてやろう。」
神は人間を生かしておく気はないようです。ウォーロック達は考えました。どうすれば降りてくる月を止められるのか。答えはひとつです。神を殺すしかない。世界を救うために。そしてウォーロック達は、最後の戦いに身を投じたのでした…。
気になる結末は、ぜひご自身で読んでみて下さいね。
まほやくにオマージュされた内容
ここからは「魔法の国が消えていく」から、まほやくにオマージュされた内容を考察していきます!
オズとウォーロック
まずはまほやく世界で最強の魔法使いオズと、「魔法の国が消えていく」で史上最強の魔法使いウォーロックとの関係について。どちらも最強と謳われる魔法使いですね。
ウォーロックの最強エピソードには城を宙に浮かべ、稲妻で軍隊を撃退し、幻の都市を造って一夜にして破壊したというとんでもエピソードが語られています。オズはどんな攻撃も使いこなしますが、特に雷の攻撃はよく使っているイメージですね。トビカゲリとの戦いでも存分に雷を落としていました。
また、ウォーロックは自身の本当の名前はあるものの、それを名乗らずに「Warlock/戦争を封じるもの」と自称しています。わりと調子に乗りやすい性格なのです。まほやくでも世界に争いが起きるのでは?とフラグが立っていますが、もしかしたらオズがウォーロックのように活躍する姿も描かれるかもしれませんね。
そして、ウォーロックの幻の都市を一夜にして破壊したというエピソードも、オズに受け継がれているように感じます。オズはかつて幻の都メサを一夜にして滅ぼした事があるのです。このエピソードもウォーロックからオマージュされたのかもしれませんね。
ちなみに、今回あらすじでは省略しましたが、「魔法の国が消えていく」においてアトランティスは重要なキーとなっています。まほやくの東の祝祭に登場するメサは、アトランティスをモチーフにしていると思われますので、もし興味があれば過去の考察もみて下さいね。
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マナと魔法
「魔法の国が消えていく」におけるマナは魔法の源であり、マナが減少すれば魔法が使えなくなり、動物や植物を含めて、生物がマナを失うと石化します。マナを帯びていない生物もいるので、普通の人間などは死んでも石化しないようですね。
マナは度々ファンタジーにおいては生命の源として描かれていますが、書評者いわく、魔法にマナを使うという仕組みは、この「魔法の国が消えていく」が初めて描いたといいます。
まほやくにおいてマナについては今のところ詳しく触れられていませんが、魔法使いは魔力を失ったり死んだりするとマナ石になります。魔法使いは自身の魔力で精霊を使役して、魔法を使います。おそらくですが、魔力や生命の源がマナなのでしょう。
魔力の源がマナであること、そしてマナ(魔力)を失うと石になる、という設定はこの小説からオマージュされているのかもしれませんね。
月と大いなる厄災
小説では神ローズ=カティが月を地球に降ろし、炎の海にしようと企みました。そしてそれを阻止するためにウォーロックたちは戦ったのです。ウォーロックは戦いの際に、今自分は「世界を救う話」をしていると言います。世界を救うために、月が降りるのを阻止する。これはまほやくにオマージュされていそうですね。
小説では月は神が呼び寄せましたが、まほやく世界では何故月が近づいてくるのかはわかりません。月が落ちれば世界が滅びるといわれていますが、それも本当かわかりません。
実はローズ=カティは過去にも地球に月を衝突させ、生命が絶滅しているのです。ウォーロックたちの頭に送られたイメージは、その時のものなのです。生命が絶滅したあと、神々は人間をはじめとした生命を創造し、今に至ります。
まほやく世界が過去に滅んだことがあるのかはわかりませんが、こういった小説のエピソードがオマージュされることもあるのかもしれませんね。
ただ、今までいくつか元ネタと思われる小説を読んできましたが、根幹の世界観やキャラクター性は小説をオマージュしていますが、物語の展開はまほやくらしいオリジナル展開となっていることが多いです。展開に少し元ネタを挟み、より魅力的に描いているシーンもありますが、あくまでまほやくらしさを貫いています。
この「魔法の国が消えていく」の物語も、おそらく丸っとオマージュすることはなく、程よい塩梅で取り込んでいき、より魅力的な「まほやくのエピソード」となるのでしょう。
魔法使いの特性
小説の魔法使いは不老の魔法が使えるため、200歳超えのウォーロックも、かつてはピチピチのイケメンでした。が、マナが減少し強い魔法が使えなくなると、若作りができなく、よぼよぼおじいちゃんとなるのです。歩くのも必死。
寿命についてはあまり詳しく描かれていませんでしたが、おそらく魔法使いの寿命が長いわけではなく、魔法で若作りするなどで延命しているのでしょう。また、まほやくでは生まれながらに人間と魔法使いとで別れますが、小説では普通の人間が修行を重ねて魔法使いとなるようです。この辺りはまほやくとは異なりますね。
小説において魔法使いはこのようにも描かれていました。甘い推理、堅実な判断、そして哲学的諦観。これらは魔法使いたちには一般にみられない、と。この表現を見る限り、魔法使いはちょっとヤバいやつ、という認識なのかもしれません。ちょっぴり、まほやくにおける魔法使いの印象にも似ていますね。
魔法生物
小説ではマナが薄れてきたこともあり、マナに依存している生物は現存していません。人魚やケンタウロス、エルフ、ドラゴンなどです。そんな中、マナの希薄な場所でユニコーンが生き残っているのをウォーロックが見たといいます。この世界では貴重なマナを宿す生物なのでしょう。
まほやくでも、今年の大いなる厄災が襲来するまではドラゴンなどは現存しておらず、過去の魔法生物とされていました。唯一、魔法使いと同じように魔法が使える生き物はユニコーンとされています。このあたりの設定はまほやくにオマージュされていそうですね。
しかし、まほやくでは大いなる厄災が襲来したのちに、ドラゴンなどが復活しています。小説では、石になり死にかけていた<世界の虫>が、マナが注がれることによって復活する可能性が示唆されていました。
もしかしたら、まほやくでも同じように<大いなる厄災>によってマナ?が注がれたことにより、古代の魔法生物達が復活したのかもしれませんね。
世界の虫と栄光の街
小説の<世界の虫>は世界を取り囲む巨大な蛇でした。その姿は山脈たちを形作る一部となっていたのです。まほやくに登場するカインの故郷、栄光の街は巨大なサーペント(蛇)が形作る丘陵に囲まれています。なんだか似ている共通点ですね。
小説ではギリシャ兵のオロランデスが魔法の剣で神と対峙し、勇猛果敢に戦いました。まあ蛇である<世界の虫>は既に石化していたので、蛇と戦うことはなかったのですがね。
まほやくの栄光の街は、2匹のサーペントに囲まれており、魔法使いから剣を授けられた勇者が退治したという伝説が残っています。これはギリシャ神話の英雄ヘラクレスが、2匹の蛇を退治した話から由来しているのでしょう。そしてそれに「魔法の国が消えていく」に登場した<世界の虫>の設定をがっちゃんこ。こうして蛇に囲まれた栄光の街が誕生したのかもしれませんね。
まほやくは1つの物語だけを由来とはせず、色々なお話から少しずつ切り取ってオマージュしていることが多いです。が、個人的に感じるのはカインはひと際色々なお話からエピソードを切り取ってオマージュされているな、と。聖書、ギリシャ神話、ケインとアベル、そして誰もいなくなった…スーパーハイブリット騎士・カイン誕生!
約束と誓約
最後に触れるのが、約束と誓約について。小説において妖術師のウエイヴィヒルはウォーロック達にこういいます。
「誓約してもらいたいことがある。マナを獲得したあかつきには、おれを元の体に戻してくれるか?あんたたちの誓約には拘束力があるんだよ。マナの強い環境のもとでは、誓約はいかなる自然法よりも強力なんだ。」
この言い分だと、誓約を守らないと罰があるというより、誓約を守るように強制する不思議な力がある、という事でしょうか。
また、小説では戦争をしていた兵士たちが、愛情と約束事を思い出し、妻や夫の元へ帰っていくシーンも描かれています。ここでいう約束事は明確ではありませんが、おそらく結婚のときに交わした約束事のことでしょう。結婚式で神様や人々の前で愛を誓いますよね。…小説の舞台となった古代にその風習があったかは不明ですが。
まほやくでは魔法使いが約束を破ると魔力を失います。過去に聖書を考察したときに、これは神と信徒との約束をオマージュしていると感じましたが、この「魔法の国が消えていく」の設定も併せてオマージュしているのかもしれませんね。
さいごに
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!いかがでしたか?今回、簡単にあらすじをご紹介しましたが、まだまだ面白いエピソードが沢山描かれていますので、ぜひみなさんも「魔法の国が消えていく」を読んでみて下さいね。
そして個人的に胸に刺さった文があるのでご紹介しますね。外伝「千里眼」からの一文にはなるのですが。
マナの存在は最終的に祝福よりも呪いであることが判明したと、彼はしばしば考えた。マナが使い果たされたとき、人類はほかのことをろくに知らなかった。本来マナがなければ、人類はこの永続的な情勢にのみ依存するもろもろの技術を開発したことだろう。例えば住居を明るくするのに、油脂の鉢の中に浮かべた燈心よりも、もっとすぐれた方法があるはずではないか。ところが、数々の、それぞれ異なる発明の必要に迫られているというのに、誰一人そうしたものを思いつきそうにないのだ。
魔法があったからこそ、人類は文明の発達をおろそかにした、という事です。まほやく世界ではマナが尽きる話はまだあがっていませんが、文明はまだまだ未発達。そこでムルが魔法科学を発明し、急速に文明が発達しています。しかし、魔法科学の原料はマナ。いずれ魔法使いをはじめとした魔法生物が絶滅した場合、後に何が残るのか。
まほやく世界にとってマナの存在は良いのか、悪いのか。魔法使いの存在は世界にとって本当に是となるのか?色々と考えさせられる文だなあと感じました。
まだまだ描ききられていないまほやくワールド!今後の展開も楽しみですね!
それでは、また!
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参考記事
魔法の国が消えていく / ラリー・ニーヴン/厚木淳 – 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア