イベントストーリー「熱砂のオアシスに勇者の歌を」では、カイン達がオアシスでバカンスを過ごす姿が描かれていましたね。カインとオーエンが揃って登場したこともあり、胸が踊った賢者様も多いのでは?
今回はイベントストーリーのキーとなった、勇者「セト」について、彼の元ネタを辿っていきたいと思います。辿っていくと意外や意外、カインたちとの密接な関係が浮かび上がってきたので、皆さま乞うご期待を。
ここからはネタバレがありますのでご注意を!
それではレッツゴー♪
あらすじ
カインと賢者は、グランヴェル城を訪れていた吟遊詩人から、「セトと魔法の聖杯」という物語を聞く。この物語はカインも知っており、物語の舞台となったオアシスを訪れたことがあるという。カインと賢者は賢者の魔法使い達を誘い、オアシスへバカンスへ行くこととなった。
しかし、オアシスでは勇者セトの姿を見たという証言がいくつも飛び交っていた。一行は異変を確かめるべく、オアシスで調査をするのだった。
セトのモチーフ
それでは、イベントストーリーのキーとなった、勇者「セト」の元ネタ、もといモチーフについてみてみましょう!
実はモチーフは大きく分けて3つあり、1つめは聖書に登場するセト、2つめはエジプト神話に登場するセト、そして最後の3つめはアーサー王伝説の聖杯戦争です。どんだけあんねん。
この3つから少しずつモチーフを得て、ミキサーにかけて誕生したスペシャルブレンドが、今回イベントストーリーに登場した勇者セトではないかと思われるのです。一気に紹介すると混乱すること間違いなしなので、まずは聖書のセトからご紹介しますね。
聖書のセト
聖書に登場するセトは、アダムの子どもです。そう、よく耳にする「アダムとイブ」のアダムです。アダムは神様に最初に創られた人間で、アダムのあばら骨から生まれたのがイブ。ふたりは夫婦としてエデンの園で暮らしていましたが、神様からは「この園の知識の木から実を食べてはいけない。」といいつけをされていました。
エラストゥス・ソールズベリー・フィールド – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17305153による
しかし、ずる賢い蛇にそそのかされて、ふたりは禁断の果実を食べてしまいます。それを知った神様は、ふたりをエデンの園から追放したのでした。これが世に言う「失楽園」のエピソードですね。
実はその続きがとてもまほやくに関わってくるのですが、失楽園の後、アベルとイブの間には子どもができます。それがカインとアベルです。そう、まほやくに登場するカインのモチーフのひとつであるカインですね。
厳密に言うと、この聖書に登場するカインをモチーフにして書かれた「そして誰もいなくなった」や「ケインとアベル」という小説が強くカインのモチーフになったと感じているのですが、それは別の考察を読んでみて下さい。
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さて、この聖書に登場するカインとアベルは兄弟です。カインが兄で、アベルが弟ですね。ふたりは神様に供物を捧げますが、カインの供物だけは神様に気に入られませんでした。それをやっかんだカインは弟のアベルを殺してしまいます。これは人類最初の殺人とも言われています。
ピーテル・パウル・ルーベンス – The Courtauld Gallery, London, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18279148による
その事件を知った神様はカインをその土地から追放しました。しかし、罪人である自分は土地の者たちに殺されてしまう、とカインは神様に泣き言を言います。
神様はしょうがないなあと思いつつ、「彼を殺すものは7倍の復讐を受けることになる」という意味を込めた印をカインにつけます。カインは自身を守る印、「カインの刻印」をその身にうけたのです。その後、カインは土地を去り、エデンの東にあるノドの地で暮らしました。
一方、アベルの死後、神様はアダムとイブにアベルの代わりとしてセトを授けました。アベルの代わりに授かったこともあり、アベルの生まれ変わりと解釈されることもある人物です。つまり、セトはカインとアベルの弟にあたるんですね。
By Feofan Grek – Old reproduction, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24976670
余談ですが、その後、セトの血は受け継がれていき、その子孫には「ノアの箱舟」で有名なノアがいます。気になる人はノアの箱舟のエピソードもチェックしてみてね。
こうしてカインと所縁の深い関係からインスピレーションを得て、イベントストーリーにセトが登場したのかもしれませんね。
エジプト神話のセト
お次にご紹介するのはエジプト神話に登場する神様、セトです。見た目はジャッカルというエジプトのオオカミだったり、シマウマやカバだったりと、あまり安定していません。登場初期は砂漠の神様でしたが、後に軍神として崇められるようになります。闘いにおいて、めちゃくちゃ強い神様なんですね。
By Jeff Dahl (talk · contribs) – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3306905
セトの大切なお仕事のひとつとして、太陽を乗せた舟の護衛があります。エジプト神話では、太陽は舟に乗って、昼は地上を、夜は地下を移動すると考えられているのです。地下は死の世界であり、太陽を狙っていくつもの危険が襲い掛かります。
中でも強敵なのが、原始の水から生まれ、地下の冥界を支配している、巨大な蛇アポピスです。舟は色々な神様が護衛しているのですが、両者ともになかなか勝利は収められず、激戦を繰り広げます。アポピスの凝視によって神々は動けなくなり、次々と無力化されていくのです。
By An unknown workman – Egyptian Museum, Cairo, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23441469
そんな中、セトだけは何とか睨みにすくむことなく、アポピスを打ち負かします。セト強い!こういったエピソードもあり、対アポピス戦においてセトはとても頼りになり、「天敵」となったのです。
イベントストーリーの舞台は砂漠にあるオアシス。なんとなくエジプトらしさを感じますね。そのオアシスの伝説では、湖に現れた大蛇を勇者セトが退治していました。エジプト神話のセトとアポピスを連想させますね。
また、神話のアポピスは原始の水から生まれ、夜に死の世界を通る太陽を狙います。そして睨みをきかせることで、相手をすくませて動けなくするのです。イベストのカインVS大蛇のシーンは、舞台は湖、そして夜に闘いが起きています。賢者は大蛇をみて、恐怖からか震えていましたね。このあたりはアポピスのエピソードをモチーフにしているのかもしれません。
こうしてエジプト神話でカッコいい活躍をしたセトですが、なんと王位欲しさに、兄のオシリスを殺してしまいます。なんてこった。カインとアベルといい、兄弟仲良くできないものか。
後にセトは、オシリスの息子であるホルスによって、討伐されてしまいます。一説によると、この闘いでセトが流した血によって2つオアシスが誕生したといいます。なんとなく今回のイベストの舞台であるオアシスを連想しますね。
この悪名が世間に広がり、セトはだんだんとアポピスと同一視されるようになってしまいます。最初は敵対していたのに…。
壁画に描かれたホルス
By Rhys Davenport from United Kingdom – Horus – Temple of Seti I, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47107117
ちなみに、セトを退治したホルスは、この時に両目を失ってしまいます。しかし、月の神に回復してもらったり、太陽の神から力を得たりして両目とも復活。右目は太陽、左目は月の象徴とされたのです。つまりオッドアイということですね。
大蛇を退治したカインの右目は、オーエン曰く「蜂蜜と朝焼けの光を溶かして混ぜたみたいな、夏の花みたいな色」と褒められています。本人はけなしているつもりですが、これは褒めてます(笑)。こういったエピソードもあり、イベストでセトや大蛇が登場したのかもしれませんね。
アーサー王伝説の聖杯探求
最後にご紹介するのが、アーサー王伝説で人気なエピソードのひとつ、聖杯探求です。イベストでは湖に浮かぶ聖杯をセトが手に取り、突如現れた大蛇を打倒した、という話が伝説となっています。セトや大蛇と同じく、聖杯も重要なキーとして描かれていますね。
聖杯といえばアーサー王伝説!(単純)。というわけでアーサー王伝説で語られる聖杯探求のあらすじと登場人物についてざっくりとみてみましょう。
Evrard d’Espinques – Original at Bibliothèque nationale de France, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2203170による
その日は聖霊(せいれい)降臨祭の日でした。ここでいう聖霊とは、キリストの弟子たちのもとに降り、キリストの教えを広めるために色々と手助けしてくれた不思議な存在のこと。かつてその聖霊が降りた事を記念する祝日が、聖霊降臨祭です。
ミサが終わり、アーサー王と騎士たちが円卓に座っていました。(この騎士たちを、後に円卓の騎士と呼ぶようになります。)その円卓の中央に、突如として聖杯が現れました。聖杯は次々と騎士たちが望む食べ物を出現させ、そしてどこへともなく消え去ります。
この不思議な現象について、一体どういうことかと騎士たちは話し始めます。すると騎士ガウェインがアーサー王に進言しました。
ガウェイン
By Howard Pyle – http://www.oldbookart.com/2008/08/25/howard-pyle-king-arthur-and-his-knights/, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18494731
「王様、私たちは聖杯から食べ物をいただくという名誉を浴したのですが、私たちの心が罪に汚れていたため、はっきりと見ることができませんでした。そこで私は誓いを立てます。私は聖杯の探求の旅に出発し、この不思議な現象をしっかりと見極めてまいります。」
聖杯の恩寵は心の純粋な人にしか与えられません。それもあり、ガウェイン達には何が起きたのかハッキリと理解できなかったのかもしれませんね。ガウェインの誓いに他の騎士たちも賛同し、円卓の騎士達は聖杯を探す旅に出たのです。
というのが、ざっくりとした聖杯探求のあらすじです。ただ、アーサー王伝説は様々な人が同じようなエピソードを、それぞれの解釈で描き、各地方で知られています。そのため、著者によってかなりあらすじが変わるので、そのあたりはご了承くださいね。
さて、聖杯を探す旅にでた円卓の騎士達ですが、彼らの中にセトのモチーフになっていそうな騎士がいます。それがランスロットです。
ランスロットがドラゴン(大蛇)を退治している絵
By Arthur Rackham – http://poulwebb.blogspot.no/2013/07/arthur-rackham-part-6.html, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58058164
ランスロットは円卓の騎士達の中で最強との呼び声の高い、めちゃくちゃ強い騎士です。両親を早くに亡くし、湖の乙女という妖精に育てられました。そのため「湖の騎士」という別名を持っています。
今回のイベストの舞台はオアシスこと湖。そこで勇者セトの姿が目撃されていますので、なんとなく縁を感じますね。しかし、勇者セトの正体は、実は過去に聖杯を盗もうとした盗人でした。伝説で語られているような勇者ではなかったんですね。
では、アーサー王伝説に登場する、湖の騎士ランスロットはどうでしょう?ランスロットは決して盗人ではなく、高貴で騎士道精神に溢れる勇者です。かつて大蛇こと竜を打倒したこともあり、勇気と武を兼ね備えた素晴らしい騎士です。が、しかし、彼は不倫をしてしまうのです。しかも、よりにもよって主君であるアーサー王の奥さんと。なんでそんなことしちまうんだい。笑
先ほど、聖杯の恩寵は心の純粋な人にしか与えられない、と説明しました。ランスロットの不倫はまごうことなき不義です。そのため、ランスロットは聖杯を手に入れることができなかったのです。
イベストに登場するセトも、聖杯を盗もうとしましたが、逆に大蛇に葬られてしまいます。セトも聖杯を手にすることができなかったんですね。このあたりもランスロットを意識して描かれているのかもしれません。
では、アーサー王伝説で聖杯を手に入れる事が出来たのは一体誰でしょう?所説ありますが、最も有名で、最も完全無欠な形で聖杯を手にしたのは、騎士ガラハッドだといわれています。
ガラハッドはなんとランスロットの息子です。あらすじの冒頭で述べたミサの少し後に、不思議な老人がアーサー王と円卓の騎士達の前に連れてきたのです。円卓には、座れば呪いがかかる13番目の席があります。その空席に、ガラハッドは呪いに打ち勝って座ってみせました。
また、円卓の騎士達の誰もが抜けなかった、岩に刺さった魔剣を、ガラハッドは「この剣を抜けなかったのは当然です。私の剣なのですから。」と決め台詞を言い放ち、いとも簡単に剣を抜いてしまいます。超かっけえ。
しかも、不思議な老人からは「この国でいまだかつてなかったほどの偉大な仕事を成し遂げるでしょう。」というお墨付きまでもらいます。ただものではない事がビシバシ感じられますね。
ガラハッド
ジョージ・フレデリック・ワッツ – 不明, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=111930による
この後、ガラハッドは他の円卓の騎士達と同様に、聖杯探求の旅へと赴きます。他の騎士たちは悪魔の誘惑に負けそうになったり、力不足で倒れていく者もいましたが、ガラハッドだけは誘惑にも負けず、武力においても勇気と力を証明し、見事聖杯を手にするのでした。
イベストではセトが成し遂げられなかった「聖杯を手にする」という目的を、カインは聖杯の力に押されながらも、その手にする事ができていました。この構図は、聖杯を手にすることができなかったランスロットと、逆に完全無欠な形で聖杯を手にしたガラハッドの関係を、どことなく感じることができる気がしますね。
ちょっと話がそれますが、カインは様々な作品からモチーフを得て、キャラクターがつくられていると私は感じます。そのひとつがアーサー王伝説の円卓の騎士達ではないかと考えています。
円卓の騎士達はそれぞれに物語があり、非常に印象的なエピソードが多数あります。それらを少しずつカインは取り込んでいるような気がします。とはいえ、私もまだまだアーサー王伝説は勉強中の身です。これからもじっくり考察をしていきたいと思いますよ。まほやく探求の旅だー!
聖杯の由来
最後の最後にちょっとオマケです。アーサー王伝説に登場した聖杯ですが、そもそもこの聖杯の正体とは何でしょう?メジャーな説としては、キリストが最後の晩餐に用いた盃と言われています。
が、実はこれも諸説あり、詩人ヴォルフラムが書いた「パルチヴァール(騎士パーシヴァルの事)」という作品では、聖杯は石であると描かれています。ときどき石に文字が浮かび上がったりするんだそう。
この記述から、実に色々な解釈が飛び交います。そのひとつに、旧約聖書に登場する「契約の箱」に収められた、モーセの十戒が刻まれた石板ではないか、という説があります。
とっても簡単にモーセの話を説明すると、エジプトで奴隷となっていたイスラエル人たちを救出したモーセが、みんなでカナンの地を目指している途中で、追っ手から逃れるために海をぱっかーんと真っ二つに割ったり、神様とイスラエル人との間で交わされた契約(十戒)が記された石板を手に入れる、というお話です。
この石板が聖杯なのではないか、という説があるんですね。イベストではミスラがモーセよろしく湖を真っ二つにしていました。もしかしたら、このエピソードにあやかって描かれたのかもしれませんね。とはいえ、石板=聖杯という説はドマイナーではあるのであしからず…。
さいごに
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!お楽しみいただけましたか?
今回はじめてエジプト神話について調べてみたのですが、面白いエピソードがわんさかでてきて、ひとりで興奮しながらこの記事を書きました。危ない人だ…。まほやくのイベストもさることながら、遊〇王とか、王家の〇章とか、エジプト神話をモチーフにした作品があるじゃないですか。それらの理解が進む感覚が楽しかったですねー。
今回は聖書にエジプト神話にアーサー王伝説と、エピソードが盛りだくさんだったため、きちんと整理して皆さんにお届けできたか、だーいぶ不安ではありますが、少しでも「まほやく面白い!聖書たち面白い!」と感じていただければ幸いです。
みなさんはカイン&アベル、オシリス&セトのように兄弟喧嘩しないようにお気を付けを~。
それでは、また!
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お互いの目を持っている因縁コンビ、カインとオーエン。今回はこのふたりの魔法使いに関わる元ネタについて考察していきたいと思います。前にオーエンの元ネタ「そしてだれもいなくなった」について考察しました。今回はカインの元ネタとされている[…]
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